ニンジン事件

長男がまだ2歳で、イギリスに住んでいた頃。

夫と長男とマックに入り、長男にハッピーセットを買った。イギリスのハッピーセットはポテトではなく生ニンジンが選べた。(イギリスの子供はおやつに生ニンジンを食べるようだ。健康的でいいと思う。)

長男はこのスティック状の生ニンジンが好きでいつも喜んで食べていた。 

と、突然、長男の動きが止まるというか、声を出さなくなった。

食べていたニンジンがのどに詰まってしまったのだ。息ができなくて苦しがる長男…!

あっ…と血の気が引いたその時、素早くボブが動いた。

ボブはいつも子供がのどに食べ物が詰まらせないか注意していた。この時も用心深いボブは長男がニンジンを食べている間、もしもの時に備えて長男から目を離さなかった。

ボブは苦しがる長男を素早く自分の腕にさかさまに乗せ、頭を体より低くし、長男の背中を叩いてニンジンを吐き出させた。ラッキーなことにボブはこの数週間前に救命法の講習を受けたばかりだった。

ゲホゲホを涙を流して咳き込んでいる長男を、私はこれまた涙を出しながら抱きした。ボブの迅速な対応もあって時間にしたら多分十数秒程度のことだったと思うけど、長男がどうにかなってしまうかもしれないと感じたあの時間はとても恐ろしい時間だった。

…その時、ざわついているお客さんの中から制服を着た警察官が二人出てきた。ちょうど休憩中マックを買いに立ち寄ったらしい。「どうかしましたか」と尋ねる警官の方々に、ボブは今起きたことを説明した。一通り話を聞いた警官の二人は「何事もなくて良かった」と言ってレジの列に戻っていった。

その後少し落ち着きを取り戻した私たちは、ハンバーガーを食べながら、「あの警察官の人たちはさかさまにした長男を叩いているボブを見て、もしかしたら虐待を疑ったかもしれないね。」なんて話していた。

とそこへ、再び警官の二人が戻ってきた。

本当に虐待を疑われたんじゃ…と戦々恐々とする私たち。

だったけど…

警察官のお二人は笑顔で「大変だったね」と長男の胸にシールを貼ってくれた。シールはわざわざパトカーに戻って持ってきてくれたらしかった。

そして夫にも「頑張ったね」とシールをくれた。(何もしていない私にもくれた) 

虐待どころか自分たちの(ボブの)行動を褒められて、感情が高ぶっていた私たちはとってもとっても感動しました。

あのニンジン事件以来、私たちは長男+次男に生ニンジンを食べさせていない。食べ物の大きさもいまだにかなり気をつけている。

親の私たちがトラウマになってしまった。本当に未だに思い出しても背筋が凍る出来事だった。

ちなみに変な話かもしれないけど、ちょうどボブが救命法を学んだ直後だったこと、そしてもちろん救命方法を知っているであろう警官の方たちがタイミングよく現れてくれたこと(ボブのやり方がうまくいかなかった時のため?)、長男は神様に守られているんだなあ、と感じている。